(札幌地裁 が2006年3月28日にしたビラまき禁止の決定に対して、宇江喜笑子さんが抗告しました。以下訴状です。)
保 全 抗 告 状
2006年4月5日 札幌高等裁判所 民事部 御中
抗告人 宇 江 喜 笑 子 上記訴訟代理人弁護士 島 袋 隆
当事者の表示 別紙当事者目録記載の通り
第1 抗告の趣旨 1 札幌地方裁判所が平成18年(モ)第45号保全異議申立事件について 2006年3月28日にした決定 を取り消す。 2 被抗告人の仮処分命令申立を却下する。 3 訴訟費用は被抗告人の負担とする。 との裁判を求める。 第2 抗告の理由 1 保全命令事件の表示 ア 札幌地方裁判所、平成17年(ヨ)第289号文書頒布禁止等仮処分命令申立事件 イ 札幌地方裁判所、平成18年(モ)第45号保全異議申立事件 2 仮処分決定と認可決定 札幌地方裁判所が、平成17年(ヨ)第289号文書頒布禁止等仮処分命令申立事件について、2006年2月2日、仮処分決定をしたので、抗告人は、同年2月11日、保全異議の申立をしたところ、札幌地方裁判所は、同年3月28日、仮処分決定を認可する決定をした。 第3 抗告事由 1 憲法違反があること ア 適正手続の保障がなされてないこと a 抗告人は、平成17年(ヨ)第289号文書頒布禁止等仮処分命令申立事件(伊東智和裁判官)において、札幌・沖縄間は地理的に極めて隔たりがあること、飛行機の便宜が悪いこと、札幌に行くには経済的な負担が巨額にのぼること、札幌弁護士会で代理人になり手がいないこと、沖縄弁護士会の島袋隆は公的にも私的にも繁忙であること、などを申し出て、代理人弁護士島袋隆を同道して直接、弁明し反論する機会を与えてほしい旨、要望した。 しかし 伊東裁判官は、抗告人の要望を顧慮することなく、仮処分決定をした。 b 抗告人は、平成18年(モ)第45号保全異議申立事件(森邦明裁判官)において、代理人弁護士島袋隆を同道して審尋手続に参加したが、 森裁判官は、審尋において、ひとりでしゃべりまくっており、争点を告知することもなく、セクシャルハラスメントの有無や摘示した事実の真実性について発問することもなく、20分の短かさで、あっけなく審尋を結了させた。 森裁判官は、きわめて表面的形式的に審尋手続を開いたに過ぎない。 c 後述するように、本件保全異議申立事件において森裁判官は、「債権者が債務者に対して性行為を強要したとか、無理強いして遂げたとまではいまだ言えない」(11頁24行目〜26行目)と事実認定している。この事実認定が認可決定の骨格であり精髄である。 しかし、強要したか否か、無理強いして遂げたか否か、の争点について森裁判官は一言も発言していないし、一問も発問していない。そうであるにもかかわらず、「債権者が債務者に対して性行為を強要したとか、無理強いして遂げたとまではいまだ言えない」と判断したのである。このことは森裁判官が予断を持っていたことを意味し、森裁判官は予断に基づいて認可決定をしたことを意味する。非常におざなりで、杜撰な審尋手続である。 d 上記 a 、 b 、c の事情は、憲法31条が保障する、明確に争点を告知され、弁明し反論する機会が、抗告人に与えられてないと解するのが合理的である。したがって、平成17年(ヨ)第289号文書頒布禁止等仮処分命令申立事件(伊東智和裁判官)においても、また平成18年(モ)第45号保全異議申立事件(森邦明裁判官)においても、憲法31条に反する重大な瑕疵がある。 イ 表現の自由を侵害していること a 憲法21条は国民に表現の自由を保障している。文書の頒布や街頭宣伝活動は、表現の自由として保障されている。 b 表現の自由は民主主義社会の根幹を支える優越的な権利である。し たがって原則として表現の自由を制約することはできない。事前抑制も原則として許されない。 c 表現の自由を制約は、慎重に謙抑的になされなければならない。した がって表現の自由に対する制約は、特殊例外的な場合に、明確な基準 で、必要やむを得ない限度でなされるべきである。制約が広汎であったり、あるいは漠然としていたりしていてはいけない。事前抑制を加える場合は、明白かつ現在の危険が存在する状況でなければならない。 d 仮処分決定は、「債務者は、自ら又は第三者をして」と命じている。「第三者をして」という表現は広汎であり、あるいは漠然としている。 抗告人が、指揮・命令してという意味か。それとも労働組合や市民団体や裁判の傍聴人たちにパンフレットや口頭で、裁判・事件の情報を与えたり、裁判の支援を訴えたりした後、かれらの自主的な主体的な判断で文書頒布や街頭宣伝活動をした場合も「第三者をして」に該当するのか。判然としない。 e 仮処分決定は、「債権者の実名を掲げるなど、それを見た者をして対象者を特定し得る方法により」と記載している。「など」や「それを見た者をして対象者を特定し得る方法」が不明確であり、漠然としている。歯科医師 M ならどうか。歯科医師 M ・ E ならどうか。発寒の歯科医院の歯科医師ならどうか。八軒在住の歯科医師ならどうか。八軒在住の歯科医師 M ならどうか。仮処分決定は該当するかどうかの判断を行為者に委ねており、行為者は萎縮して行為を控えてしまう。 f 仮処分決定は、行為方法を、頒布、掲示、配布、郵送、投函、ファクシミリにより送信すること、インターネット上のホームページに掲載すること、と記載している。これらの行為方法は現代の社会生活において想定しうる手段をほぼ漏れることなく一網打尽に捕捉している。これはあまりにも広汎である。 g 制約する場所に注目すると、仮処分決定で禁止する頒布場所は、被抗告人が居住し、また歯科医院を営む札幌市西区だけでなく、札幌市全体であり、北海道全体であり、沖縄県も、東京都も大阪府も福岡県も含んでいる。これはあまりにも広汎である。特に沖縄県が問題である。札幌市西区八軒に在住し、札幌市西区発寒で歯科医院を開業している被抗告人宮本の名誉・信用がなぜ沖縄県で侵害されるのか分からない。 h 本件の仮処分決定は思想・信念・事実を発表する前の事前抑制である。事前抑制を加える場合は、明白かつ現在の危険が存在する状況でなければならない。しかし明白かつ現在の危険の存在が十二分に示されているとは言えない。 i 仮処分決定は、被抗告人の住居と宮本歯科から半径500メートルの範囲内において大声を張り上げたり、街頭宣伝活動をしてはならないと命じている。 半径500メートルという距離に着目すると、大声が届く範囲は最大限20メートルである。街頭宣伝活動のマイクが届く範囲は最大限80メートルである。 よって500メートルの規制は、距離として広汎に過ぎる。 また音量に着目すると、仮処分決定は音量を指し示すことが全くない。近隣の生活の妨害は音量である。被抗告人の名誉・信用の侵害も精髄は音量である。 音量を全く示さないで禁止することは明確な基準を示していないことになる。また規制目的と規制手段の関連性を喪失し、必要止むを得ない制約とは言えない。 j 仮処分決定は、一方、文書の頒布は日本全国に拡大して禁止し、他方、大声を張り上げたり、街頭宣伝活動をすることは住居・歯科医院から半径500メートルと局限して禁止し、不均衡と不合理を示している。例えば、文書の頒布を大阪府で行なえば禁止違反になるが、街頭宣伝活動を札幌駅駅頭で行なえば禁止違反にはならない。 この不均衡と不合理は、表現の自由に対する制約は、特殊例外的な場合に、明確な基準で、必要やむを得ない限度でなされるべきであるのにもかかわらず、そうなってないことに由来するものである。 k まとめ 仮処分決定は憲法21条の表現の自由を侵害している。 2 事実認定の誤り ア 認可決定は「債権者が債務者に対して性行為を強要したとか、無理強いして遂げたとまではいまだ言えない」(11頁24行目〜26行目)と事実認定をしている。 イ しかし第一に、被抗告人自身、上司と部下の関係にあったことを実質的に認めている。小さな歯科医院で、上司が部下に及ぼす事実上の支配力は絶大である。 第二に、被抗告人は、歯科医師であり、抗告人は歯科助手である。小さな歯科医院で歯科医師は君主にも匹敵する指揮・指示・命令の巨大な権力を持っている。 第三に、被抗告人は沖縄の「さかした歯科クリニック」において、また札幌の宮本歯科において、歯並び矯正治療について、抗告人に知識・技術を指導・研修する師である。 第四に、被抗告人は人生経験・社会経験・職業経験の豊富な45歳であり、他方、抗告人はそれらの経験に乏しい幼い21歳である。 第五に、被抗告人は妻があり、抗告人とほぼ同年齢の子供が二人いる。被抗告人と抗告人の年齢差は24歳ある。 第六に、抗告人にとって札幌は気候も環境も文化も異なる慣れない都市である。札幌研修の際には、宮本歯科で勤務している時間だけでなく、24時間、抗告人の指揮・指示・命令の巨大な権力に支配・管理されていると言っても過言ではない。 第六に、セクシャルハラスメントは職場における力と地位を悪用して行なわれる性暴力である。一見、性関係を結ぶにあたって男性と女性の合意が存在するとの外観があったとしても、合意の存在を即断してはならない。なぜならば職場における力関係において、職を失う不安感や弱い立場や性的な羞恥心からして、女性労働者が、敢然とセクシャルハラスメントを排斥し駆逐することは至難だからである。したがって職場においてセクシャルハラスメントの疑いを掛けられたら男性が、実質的真実の合意が存在したとの立証をすべきであると考えるのが公平であり正義の理念に合致する。 第七に、抗告人は那覇地方裁判所に提出した厖大な量の陳述書を札幌地方裁判所の仮処分裁判に提出している。これらの陳述書は臨場感あふれ、被抗告人の粘着的な卑劣な性格と態度を具体的に詳細に示しており、矛盾もなく不合理でもなく、真実の事件として説得力がある。 第八に、被抗告人は、一方で、那覇地方裁判所においては、結婚を前提にした真剣な交際であったと主張し、他方で、札幌地方裁判所の仮処分手続及び本訴の裁判手続においては、「結婚を前提にした」「真剣な」というキーワードを除去・隠蔽して、妻子がいることを承知・納得して行なった、自由な合意に基づく不倫であると主張している。那覇地方裁判所と札幌地方裁判所との主張の乖離・矛盾こそが、被抗告人の主張の虚偽性を如実に示している。 ウ まとめ 以上からして、抗告人は、「結婚を前提」にして交際をするはずはない。「真剣な」交際をするはずはない。また弱い女性労働者である抗告人が自由な意思で合意するはずはない。幼い抗告人が、妻子がいることを承知・納得して「不倫」をするはずはない。 被抗告人宮本は抗告人宇江喜に対して性行為を強要したのである。無理強いして遂げたのである。 そうであるにもかかわらず、「債権者が債務者に対して性行為を強要したとか、無理強いして遂げたとまではいまだ言えない」としたのは事実認定に誤りがあると言うべきである。 3 事実の公共性、公益性、真実性 ア 認可決定は、刑法230条の2の準用について、事実の公共性、公益性、真実性について、厳格に序列と段階を踏んだチェックをする必要はなく、緩やかに解すべきであるとの抗告人の主張を紹介はしているが、判断は示していない。 イ また事実の公共性についての抗告人の主張は、独自の見解に過ぎないとして、ほとんど理由も述べずに一蹴している。 ウ 認可決定は、抗告人による真実性の証明もされてないと言明している。これはすでに述べたように事実認定の誤りである。 エ 百歩譲って、事実が真実でなくても、真実であると誤信するにつき正当な根拠があり、違法性が阻却されるとの抗告人の主張に対して、判断が示されていない。 オ まとめ 認可決定には、上記のことから分かるように、抗告人の主張について理由を附さずに排斥している違法があるし、また事実認定の誤りがある。 4 被保全権利の脆弱性 ア 認可決定は、抗告人の主張する「表現の自由一般についての所論については、これを首肯するに難くないが」(16頁8行目〜9行目)と言葉を措きながら、しかし実質的に表現の自由の優越性と厳格な制約基準を顧慮することなく、「文書配布及び街宣車による街頭行動が債権者の人格や名誉及び信用を害することは明らかである。」(16頁20行目〜21行目)と導いている。 イ 人格や名誉については明確な輪郭も内実も脆弱であることに思いを致すべきである。また信用は、経済的な信用が中核であり、経済活動の自由が表現の自由に劣後するのは明らかである。 ウ 被抗告人の子供が親族の家に避難したとの主張は、それが事実であったとしても過剰反応である。 また被抗告人の妻の疾病は文書の配布や街頭宣伝活動と法的な因果関係がない。疾病は妻の持病である。あるいは被抗告人の妻は45歳であるから更年期障害に基づくものである。 エ まとめ 以上から被保全権利は脆弱であり、表現の自由を犠牲にしても保全する に値するものではないと解するのが合理的である。 5 仮処分の必要性も緊急性もないこと ア 穏便・内密に解決する提案を一蹴したこと 抗告人は被抗告人を被告にして、昨年2005年2月、那覇地方裁判所にセクシャルハラスメントを理由とする損害賠償請求の訴訟を提起した(代理人弁護士は島袋隆)。提訴する前の2005年1月、抗告人は、被抗告人に対して被抗告人の代理人弁護士(沖縄弁護士会・久保以明)を介して、裁判沙汰になって公然化しないよう、穏便かつ内密に紛争を解決しようではないかと提案した(代理人弁護士島袋隆)。しかし被抗告人は抗告人の提案を一蹴した。抗告人は被抗告人に一蹴されたためやむなく提訴したのである。 したがって、被抗告人は公然化した今日の事態を予期し、覚悟していたと言うべきである。あるいは極めて軽率に予期をしなかったと言うべきである。 イ 過剰反応・持病・更年期障害 また、すでに述べたように被抗告人の家族の不安感は過剰反応であるし、家族の疾病は法的な因果関係がなかった。疾病があるとすれば、その疾病は持病であり、あるいは更年期障害に基づくものである。 ウ 明白かつ現在の危険の不存在 本事件は、抗告人が有する表現の自由と、他方、被抗告人が有すると主張している人格・名誉・信用の衝突と拮抗である。 すでに述べたように、表現の自由に対する制約は、特殊例外的な場合に、明確な基準で、必要やむを得ない限度でなされるべきである。加えて、事前規制は明白かつ現在の危険が存在する場合でなければならない。 本事件の場合は、事前の規制であるが、明白かつ現在の危険が存在するとは言えないし、人格・名誉・信用の利益が、表現の自由に優越することが明らかであるとは言えない。 エ 沖縄県で禁止される理由はないこと 百歩譲って、札幌市において文書頒布を禁止する必要性を認めるとしよ う。しかし、以下abで述べるように、沖縄県における文書頒布の禁止をする必要性はない。 a 被抗告人は、札幌市西区八軒に在住し、札幌市西区発寒で歯科医院を開業している。被抗告人は、沖縄県で歯科医師としての活動をしていない。沖縄県で経済活動・社会活動をしていない。被抗告人は、沖縄県生まれ・沖縄県育ちでもない。沖縄県で高校・大学を終了したわけでもない。被抗告人は沖縄県で全く無名の人間である。沖縄県に縁もゆかりもない。被抗告人宮本の名誉・信用がなぜ沖縄県で侵害されるのか分からない。 b 沖縄県において訴外西平栄次郎(那覇市松川「さかした歯科クリニック」院長)が、抗告人宇江喜を債務者として、被抗告人と類似の仮処分申立をしたが最終的には棄却されている。沖縄県那覇市繁多川に居住し、那覇市松川で開業している西平栄次郎でさえも、文書頒布禁止の仮処分を獲得できなかった。札幌市に居住し、札幌市で開業している被抗告人宮本がなぜ沖縄県において文書頒布禁止の仮処分を獲得できるのか、あまりにも不合理である。 オ 本訴を提起していること 被抗告人は2006年2月14日、札幌地方裁判所民事第1部に仮処分申立と全く同一の請求(申立)の趣旨を記載して、抗告人に本訴を提起している(平成18年(ワ)第289号文書頒布禁止等請求事件)。よって拙速な仮処分手続に依拠・依存しないで、この本訴で争うのが正当である。 カ まとめ 以上のことを踏まえると、仮処分の必要性も緊急性もないと言うべきである。 7 結び よって、抗告の趣旨の通り、保全異議申立事件について2006年3月28日にした認可決定は取り消されるべきであり、被抗告人の仮処分命令申立は却下されるべきである。
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